「食の感動」を届けるトリドールグループの挑戦 #2

株式会社 トリドールホールディングス
代表取締役社⻑ 兼 CEO
粟⽥ 貴也 様

非効率な運営をすることの意義

店舗を効率化しないワケ

ISENSE 岡田 :

御社の素晴らしいところは、会社をスリム化する一方で、お客さまにおいしいものを提供するためには手間暇をかけるということです。例えば、丸亀製麺はうどん屋ではなく、製麺所なんだとおっしゃっていて。

トリドールホールディングス 粟⽥⽒ :

丸亀製麺は各店舗で麺を打ち、釜で湯がいて提供をしているからです。
子供の頃に工場見学に行ったことがあると思うのですが、工場で作ったものをその場で食べると、すごくおいしく感じるんですよね。それを先入観と言ってしまったら、夢も何もなくて。うどんを打っているところを見るという体験をした上で食べるという、体験価値を丸亀製麺は大切にしています。
もちろんリスクはあります。例えば人が作るわけだから、味はブレるんです。もちろんブレないように研究、研修をし、社内で麺職人制度も作っています。それでもブレるときはブレます。これはチェーン店において通常はリスクなんですが、我々には多少のブレがあっても、手作りの方がいいという信念があるわけです。製麺機は高いし、水道光熱費もかかるし、効率的かと言われたら非効率の極みですよ。

ISENSE 岡田 :

例えば、冷凍して運べばあんなに職人はいらない。だからほとんどのチェーン店は製造を効率化する。でもそうなると味が妥協点になって、あの味は再現できませんよね。

トリドールホールディングス 粟⽥⽒ :

だから外食産業の中で、俺だったら丸亀製麺をもっと効率化できる、もっと利益をもたらすことできる、と思っている人は山ほどいると思います。実際、飲食の経営者が集うと例外なく、そういう経営の話から入ってくる。
でも岡田さんは最初から「それでいいんじゃないか」と言ってくれましたよね。

ISENSE 岡田 :

覚えています。色々な人が入ってきたけど、ほとんどの人は工場を作った方がいい、釜とかはやめて、効率的に店を出した方がいい、チェーンストアの基本的なことをやった方が良いと言う、とおっしゃっていた。
でも、僕は粟田さんの考え方はすごく合理的だと思っていて。代表的な例が丸亀製麺のワイキキ店です。日本とハワイとでは、水も違うし、気温も違うので、麺の配合も変えなくてはいけない。そこで海外出店している会社の多くは新たに配合を変えたものを開発して、セントラルキッチンで作ったものを輸送して、電子レンジ調理などで提供していることが多いわけです。
ところが丸亀製麺は技術を輸出しているから環境に臨機応変に対応できて、輸送コストがかからない。それでいて、今では丸亀製麺の中で1番の売り上げを誇っているのですから、すごいモデルです。

トリドールホールディングス 粟⽥⽒ :

これはハワイで頑張ってくれている社員のおかげです。それと経営的な面で見ると、そもそも非効率的な経営というのは、他社が参入してこないんです。
だから、僕はお客さまの前で見せる経営と、バックオフィスは分けて考えていて、裏で岡田さんみたいな方が贅肉を削いでスリム化をした分を、顧客の体験価値のコストに回すようにしているんです。
表がアナログであれば、裏はデジタル化をさらに促進していく。これが両方非効率だったら会社は傾きますけど(笑)、自分たちのバランスを取っていけば良いわけです。

サンドイッチ方式で現場の問題を解決

ISENSE 岡田 :

裏のスリム化の部分で言うと、御社はいくつものブランドをお持ちですが、会計業務やコールセンターなどのバックオフィスはまとめて社内BPOにし、本社では商売に集中できる環境を作られているのも特徴ですよね。

トリドールホールディングス 粟⽥⽒ :

やはりルーティンワーク的なものはマニュアルを作って、表に出して、本社はクリエティブなことを考えるメンバーが集う方が良いかなと思ったんです。

ISENSE 岡田 :

ただ、我々が入った時に、このBPOがなかなかうまく機能していないので見てもらえないかと相談されましたよね。
そこで我々は、オペレーションの現場に入って、いろいろな方に、何に困っているのかをヒアリングするところから始めました。
というのも、みんな社長には良い報告をしたいから、誤った情報が伝わっていたり、現場と社長から見えている景色や理由が違っていたりすることが多いからなんです。
我々は仕事を受けると、まず店舗や本社の方など、現場のいろいろな方に話を伺います。そしてこのときはヒアリングで分かった悪いニュースを、栗田さんにストレートに伝えましたよね。
このとき僕がすごいなと思ったのは、悪い報告を嫌がる経営者の方もいらっしゃるんですけど、粟田さんは全て受け止められたこと。僕らとは器が違うなと思いました。

トリドールホールディングス 粟⽥⽒ :

岡田さんは実績をお持ちですから。教訓めいたことも含めて、色々と教えていただくこともあったし、学びにもなりました。

ISENSE 岡田 :

結局、BPOがなかなか改善されなかったのは、全体設計ができていないまま、現状を立て直そうともがいて、複数の外部企業を入れて陣容を固めていたことが要因でした。
なかでもまずかったのは、関わっている外部企業が背景を現場に伝えていなかったこと。こうなると現場の不満も大きくなってしまう。
そこで、サンドイッチ方式と僕が言っている手法をとりました。上の困っていることと、現場の不満。双方の意見を聞き、細かなところをケアしながら、両方にアプローチする方法です。そして上だけではなく、現場の意見も聞いて、フィードバックすることを大切にしているんです。

会社のオリジナリティは尊重する

トリドールホールディングス 粟⽥⽒ :

随所で人も派遣いただきましたし、本当に感謝しています。
僕は岡田さんの仕事には真理があると思っているんです。会社が大きくなって、色々な人が入ってくると、強みが薄らいで、平準化していくことが多い。そうじゃなくて、光っているところはそのまま保持することが大切で、岡田さんはそれを分かっていらっしゃる。

ISENSE 岡田 :

ありがとうございます。実はユニクロにしても、正攻法に見えるんだけど、実は全てに独自性があって、根っこまで考えて、完成したものなんです。それを外から来た人が潰しちゃいけない。ある程度の企業が、そこからさらに伸びるためには、その企業の強さやサービスなどに対する理解力が、コンサルタントには大切になってくると思っています。